PREY Y
 ものの見事に胴体から真っ二つにされ、おびただしい血を吹き上げながら血溜まりに沈んだ少年は激しい痙攣を始めていた。
「これで終わりだ」
 それを見て、後方にいるルキアがとどめを放つ。
 狙ったのは胴と頭を繋ぐ脊椎と心臓だ。
 綺麗に三等分された身体はまるで別々の生き物のように痙攣を繰り返していたが、それも暫くすると大人しくなる。
 これでやっと一人は死んだ。いや、もともとはこの少年らは死んでいたと言ったほうが正しい。
 何たってヴァンパイアに血を吸われて屍人となった挙げ句、そこから進化を遂げてヴァンパイアに近い存在になっていたのだから。
「一つ片付けたらさっさと次も行くよ、ルキア!」
「言われなくてもわかってる!」
 ブラックの言うことはもっともだった。足元に倒れていた一人の少年が立ち上がって、ゾンビさながら襲ってきたのだ。これまでにない近距離戦に、刀の一撃は一度で胴を切り離すことはできなかった。
「戦い方に関してはこの子ら、全く素人だね」
 ブラックはそう言ってもう一刀の斬撃を放ち、その傍ら、胴体が床に落ちるよりも早くルキアの銃弾がとどめを刺した。
 残りは一体。
 ここまでくれば、弾を取りに行ったセナが戻るよりも先に片をつけられるだろう。
 そんな安堵の思いで二人が同じものに視線をやった時、驚愕というよりかは絶望的なものが身体中を駆け巡った。
「まじかよ」
「……ジーザス! 俺達、片付ける順番間違えてなかったよね!?」
 顔面蒼白となった二人からは、この現状を疑って止まないような言葉が次々と出てくる。
「最悪だ」
「アリスト死んでないよね?」
「……もしかしたら殺られたかもな」
「やっぱり?」
 残り一人の少年は、他の二人と違って闇雲に攻撃を仕掛けてくるタイプではなかった。二人が攻撃を仕掛けてルキアとブラックの注意を牽いてる間、この少年はあろうことか城主のアリストを襲っていたのだ。それだけならまだしも、血色が良くなった顔、鮮やかに染まった頬、先程に受けた銃弾の痕すらなくなっている顔をこちらに向けて笑うと、唇を伝い落ちる血を舐めて立ち上がったのだ。
 完全にヴァンパイアの血を吸っていたのがわかる状況に、二人の青年は微かに頬を引き攣らせる。
「くそ! アリストが生きてようが死んでようが、こいつを絶対に殺すぞブラック!」
 誰が殺っただの殺られただの、個人的な感情を持ち出すことはないルキアだったが、アリストが屍人に血を吸われてしまったのはかなり気に入らないようだ。
 自分達が片付けることに手間取った――つまり、自分のせいでもあることに責任を感じているのかもしれない。
「同感だよ。俺もこれ以上、溝鼠(どぶねずみ)が増えるのは歓迎しない」
 互いに同感を得た二人は慎重に武器を構え直す。
 目先の少年はもう、屍人ではないのだ。
 本来、ネズミ算式に増えていくのがヴァンパイアの常識として世間に定着しているが、血を吸われてすぐにその者もヴァンパイアになるわけではない。
 大半は無意識下で血を吸いたい欲求に駆られた屍人となる。しかし、吸血を繰り返していくうち、ごく稀に少年のような知恵をつけた者が現れるのだ。
 彼等は本質的に自分がヴァンパイアより劣っていることを悟っているのか、狙いを人間からヴァンパイアそのものに変える。つまりヴァンパイアの洗礼を受けに来るのだ。
 洗礼とはすなわち、ヴァンパイアの血を体内に取り入れることであって、それがあってこそ初めて屍人を脱することができる。
 これで晴れて立派なヴァンパイアになれるわけだが、屍人の違法な行為は人間側はもちろんヴァンパイア側も許していない。
「外に出られたらまずい。なるべくここで片付けるぞ、ブラック」
「了解」
 二人が挟み打ちしようと左右に別れた瞬間、少年は目を細めて笑った。滴る血を手の甲で拭うと床を蹴って疾走を始める。
 屍人だった時のスピードはもとより、力を得た今は動きに滑らかさがあり、ルキアの銃弾もブラックの刀もしっかり避けるだけの判断力もついている。
「成り上がりのヴァンパイアが調子に乗るなよ!」
 猫のようにすばしっこい動きを追い、立て続けに銃弾を放つルキアだが全てかわされた。
「弾は無駄に使わないの!」
 銃を乱射する姿を横で見て、ブラックは後を追うように斬り込む。一刀は囮の薙払いで、もう一刀が突きの攻撃だ。だが、それも読まれていたのか簡単にかわされ、少年は壁面を蹴って跳躍するとブラックの背後を取った。
「動くと首をへし折るよ」
 初めて聞いた少年の声は穏やかで心地好いものだった。だが、言ってることは不吉でならない。それでも事実、今の力を考えれば首の骨を折ることも不可能ではないだろう。
「ルキア撃て!」