PREY X
当の本人は言われたことをきちんとやり終え、邪魔にならないように隅で待機しているつもりなのだろう。間を入って参戦しても、この狭い部屋の中では逆に行動の範囲を狭めてしまう。
その気遣いがルキアには楽をしているように見えているとはブラックも気付いていないし、知ったら知ったで心外なことだろう。
「――おい、ブラック!」
苛立ちを隠せないかのように怒声をあげたルキアは、傍観しているブラックを睨みつける。その間にも敵は今か今かと銃口を向けて引き金を絞っている。あまり時間はない。
「何、ルキア?」
緊迫した状況を打ち消すような、暢気な声でブラックは返事をした。
「今ここで何が起こっても俺に話を合わせろ。わかったな?」
有無を言わさずの命令口調に、少し困った表情のブラックは溜め息をつき、それでも頷く。
「わかったよ」
下手におかしなことをすれば後でどうなるのか、それは前々から経験済みであり出来れば避けたいことなのだ。
取り敢えず了承を得たルキアは小銃を向けてくる少年を睨み、自分もトリガーを引く。
両足に負傷を負わせたのに元気溌剌な姿は本当に人間かと疑いたくもなってくる。いや、こいつらは人間ではなく人の形をした別の何かだろう。でなければどう説明がつく?
「セナ、一気に片をつける。頭だ、頭狙え!」
「了解」
互いに狙いを定め、間入れずトリガーを引いたのはほぼ同時だった。
室内に轟音が響き、銃口からは白煙が上がる。続いて撃ち抜いた対象が頭から後方に倒れ込む。
床に大量の脳漿(のうしょう)を撒いた二人は、しぶとく痙攣を続けながらも最後を迎えようとしていた。だが、ここまでくればもう死んだも同然だろう。
ルキアは少年達の死亡の確認をせずに、最後の一人――ブラックの前で昏倒している生き残りに銃口を向けた。
「全く手間取らせやがって……」
弾を装填し、狙いを定めた青年はゆっくり引き金を絞る。
傍観を決め込んだブラックに今すぐにでも文句をつけそうな表情で発砲すると、弾は見事命中。こちらも頭部のダメージに痙攣を起こし始める。
だが、
「ルキア、後ろ……!」
傍観者が言う言葉に少しでも反応が遅ければ、こちらが死に目を見ていただろう。
振り返り様に見た驚愕すべき事態。翠緑の瞳が最大限まで見開かれた。
「ちっ! 頭撃たれて死なないってなんだよ、こいつら!」
不可思議な動きで立ち上がる二人のうち一人は、血と脳漿と脳髄を垂れ流しながら異常な速度で迫ってくる。
間入れず迎撃して行動を阻むが弾切れが近い。セナも同様、弾が切れるのは目に見えている。
絶体絶命の危機とはこのことを言うのだろう。
「畜生、ふざけやがって!」
ギシリと歯軋りをして、ルキアはこれからの採算を立てた。
頭の中で考えた決断はあまり好きなものでなかったが、今はやむを得ない。自分達の命がなくなったら、それこそ後がなくなる。何より命に他は変えられない。
「セナ、俺がこいつらを引き付ける。その間に俺の弾丸を取ってこい。ブラック、お前は俺の盾になれ!」
「ええーっ!?」
思いきり文句たらたらな青年は、野暮用を押し付けられたように不満の声をあげる。
「俺が頼むって言ってんだよ!」
襲いかかってくる死に損ないに銃を放つセナを見やり、加勢したルキアは最後の弾を放つ。これで弾倉は空になった。あとは予備に持っていた12発のみである。
「行け、セナ!」
空の弾倉を投げ捨て、新しいものに交換するとすかさず撃ち放つ。
自分が身代わりになり、頼みの綱を無事に逃したことでルキアは一先ずの安堵感を得ていた。あとはブラックの応援にかかっている。願わくば弾が切れる前に戦いを終わらせるか、何かしらの打開策を見出だしたいのが本音だ。
「ブラック、叩き斬れ!」
自分の後ろに隠れている青年を前に押しやるや、ルキアは頭の中で思考を巡らす。
生きる者にとって脳の損傷は過大なダメージとなるが、敵はそんなことはものとせずに迫ってくる。
致命傷が効かないのであれば、この存在は一体何なのか?
不死身――いや、既に死んだ存在かもしくは……
「まさか」
峰打ちで応戦している仲間の後ろで、ルキアは顔を曇らせた。脳裏を過ぎった一つの答えが当たっているのならば、死なない理由も頷ける。
「ブラック、峰打ちは止めろ。胴体を斬り離せ。こいつらは段階を踏んでるぞ!」