PREY W
「屍人じゃなく、人間相手か。生け捕りにしないと報告書に反省文追加されるな」
 少しだけ不満な顔をし、セナは呟きながら懐の銃を取り出す。その間にも、若者二人は突破口を目指して疾走を始めている。
「俺も反省文はご免だな」
 そうぼやきながら、ルキアの目はしっかり標的を見据えていた。
 セナもルキアもブラックも、この部屋の出入口であるドアの前に固まっている。しかも仲間の一人までそこにいる。片付けるなら今しかないだろう。
 走る(逃げる)という行為だけで、攻撃の意志が見受けられない相手に、ルキアは迷わず照準を合わせた。
「言葉が通じなくて残念だ」
「俺もそう思うよ」
 賛同したセナが言葉を言い終えるのと同時だった。二発の轟音と共に、若者二人の動きがピタリと止まる。それと同時に、その表情は驚きに変わった。
 一体、自分の身に何が起こったのか理解出来ないかのように、視線は足に落とされる。
「もう馬鹿みたいに早く走れないだろ?」
 煙をあげる銃を下ろしながら、ルキアは無表情さながらに話しかける。しかし返事はないどころか、痛みすら感じないのか呻き声一つあがらない。それはセナが撃ち抜いたもう一人も変わらない。
「こいつら……痛覚ってもん、ないのか?」
「いや、相当な根性の持ち主だろう?」
 二人で敵のステータスについて言い当てながらも、視線だけは目標を捉えている。何者かわからなくても、普通の人間ではないこと、危険な人物であること、この二つだけは明確だ。
「派手に暴れられる前に片付けるぞ」
 再び銃口を向けたルキアは、相手の動きを完全に封じるためにもう片足を狙う。
 いくら何でも足が動かなくては逃げることも出来ない。これは誰だってそうだろう。
「了解した」
 照準を定めた二人に静止していた少年達が動き始める。逃げきる意志に変わりはないのか、歩みは怪我人を思わせるものはない。
「やっぱこいつらおかしいな」
 足を引きずる様子がないことにルキアは眉をしかめる。
「訂正する。根性があるんじゃなくて、異常な体質の持ち主だ」
 セナはぼやきながらも、自分に割り当てられた相手に銃口を向ける。
 本来なら即座に心臓でも撃ち抜いて殺してしまうのが手っ取り早い手段だろう。でもそれは、やって出来ないことではないが、やってしまえば後が面倒になってしまう。
 二人が嫌がる始末書もそうだが、本来元々、自分達が置かれている立場として殺しとは非常にまずいことなのだ。
 彼等は民衆の前では神父という、犯罪とは縁遠い役職として存在している。
 その神父が人を殺すなど、どう言い訳がつくものか。
 捕獲相手を睨みながらも、二人の銃口からは二回目の轟音と白煙が上がる。
 互いに二発目は、無傷なもう片足に照準を定めていたし、弾は的確に当たっていた。だが、なぜに相手は平然とした顔で沈黙を貫いていられるのだろう?
 ルキアとセナ、二人が相手にしている少年達が不気味に口端を持ち上げた。
「――来るぞセナ!」
 異様な雰囲気を察知したルキアの判断は正しかった。心構えもあってか、少年達の少しの動きにもしっかり反応し、二人は左右に飛びずさる。
「危ねぇ!」
 思わず口から漏れた言葉。
 先程まで自分達がいた場所を通過したものは、更にその後方、この部屋の壁に小さな穴を空けていた。
「……無音小銃か。大したもの持ってるな」
 再び相手を見やり、感心の声をあげるも束の間。銀色に輝く小銃が、狙いを定めてこちらを向いていたのだ。
「どうするセナ? こいつら俺達を殺そうとしてるみたいだぜ?」
 ルキアはセナを見て不吉に笑う。話しかけられた相方はその表情を見なくとも、妙に力の入った言い方で何を考えているかわかってしまったようだ。
 セナは露骨に眉を寄せた。
「言いたいことは凄くわかる。でもな、どうしていちいち俺に意見を求める?」
 もう、ほとほと呆れた口調でセナは銃のトリガーを引く。敵はしっかりこちらを見据えており、第二撃が放たれるのは時間の問題だ。
「口裏合わせに決まってるだろ? 勝手にやって話が合わなくなったら嫌だからな。ってことでいいな?」
「俺にばっかり言わないでブラックにも話しとけよ。あいつも現場にいるんだ」
 すっかり忘れていたもう一人の仲間であるブラック。
 どこに行ったかと視線を走らせれば、戸口で腕組みをして、ぼーっとこちらを見ている。相手にしていた少年はどうなったのかと床を見てみれば、うつ伏せに倒れている。
「元はと言えば、あいつが出した食料のせいでこうなったのになんであんな偉そうな態度なんだよ!」
 今この状態で、腕組みをして自分の行動を見られていると思えば凄く感に障る。